2014年4月、福井県鯖江市の「電脳メガネARアプリコンテスト」(鯖江市主催/徳間書店・セイコーエプソン協賛)に応募。鯖江の代表工芸である漆器や眼鏡を、ユーザーが描いた下絵をマーカーレス検知してAR上に仮想工芸品として出力する企画を提案。子供・大人・外国人の伝統工芸入門と職人育成教材を狙ったアプリ構想で最優秀賞を受賞しました。

電脳メガネARアプリコンテスト 2014

鯖江職人アプリ
ARで伝統工芸を身近にする企画

鯖江職人アプリ 電脳メガネARアプリコンテスト2014

AR × 伝統工芸 × 職人育成 × ものづくり体験

2014年4月26日、福井県鯖江市で開催された「電脳メガネARアプリコンテスト」にて、私は「鯖江職人アプリ」という企画を発表しました。

鯖江市は、眼鏡の産地として知られるだけでなく、漆器をはじめとした伝統工芸とも関係の深い地域です。そこで私は、AR技術を使って、子どもや外国人、工芸に詳しくない人でも、伝統工芸の意匠やものづくりを身近に体験できるアプリを考えました。

このアプリの目的は、単に仮想空間に工芸品を表示することではありません。自分で描いた意匠をアプリで読み取り、器や眼鏡、彫刻、陶芸、書道などに反映し、仮想工芸品として楽しめるようにすること。そして将来的には、実物化、投稿、投票、教材利用、職人育成支援などへ広げることを目指した企画です。

この記事で整理していること

・電脳メガネARアプリコンテスト2014の概要
・「鯖江職人アプリ」のコンセプトと特徴
・手描きの意匠をARで仮想工芸品に変えるアプリ構成
・仮想工芸品の出力活用例
・発案に至ったAR体験、日本工芸への危機感、輪島での学び
・新聞記事、ニュース掲載、関連する鯖江市コンテスト作品


プレゼンスライド

当日のプレゼン内容や、紹介映像をもとに企画の概要を整理しています

プレゼン動画

プレゼン再現

当日のプレゼン内容を再現した動画

当日のプレゼン内容を再現した動画です。
「鯖江職人アプリ」が、どのような課題意識から生まれ、どのような体験を目指していたのかを確認できます。

この企画では、ARを使って工芸品をただ眺めるのではなく、ユーザー自身が描いた意匠を取り込み、仮想的な工芸品として表示する体験を提案しました。
工芸を学ぶきっかけ、親しむきっかけ、さらに将来的には職人育成や実物化の導線にもつなげる構想です。

コンテスト概要

電脳メガネARアプリコンテストとは

2014年4月26日に、眼鏡の生産地として有名な福井県鯖江市で「電脳メガネARアプリコンテスト」が開催されました。
ARをテーマにしたアニメ作品『電脳コイル』のような近未来感を連想させる、電脳メガネ時代のアプリや企画を競うコンテストです。

このコンテストは鯖江市が主催し、徳間書店やセイコーエプソンが協賛して開催されました。
応募総数は、アプリ部門と企画部門を合わせて121点。
一次選考を通過した11作品が公開審査に進み、その場で発表を行いました。

TFきりんの紹介部分

YouTube「さばえほっと情報」内で紹介された、私の作品部分を抜粋した動画です。
短い映像ですが、当時のコンテストの雰囲気や、企画内容の一部を確認できます。

上記YouTube動画の他の参加者作品も見る

企画コンセプト

課題設定

伝統工芸を、もっと身近に体験できるアプリへ

「鯖江職人アプリ」の出発点は、伝統工芸を専門家だけの世界に閉じず、子どもや大人、外国人、工芸に詳しくない人でも、日常生活の中で気軽に触れられるようにしたいという考えでした。

鯖江市には、眼鏡や漆器など、ものづくりの文化があります。
しかし、工芸の世界は敷居が高く感じられたり、職人の技術がどのように受け継がれているのかが見えにくかったりします。
そこで、ARを使って、ユーザー自身の描いた意匠を仮想工芸品として表示し、「自分でも作ってみたい」「もっと知りたい」と思える体験を設計しようと考えました。

コンセプト

  1. 鯖江市の代表工芸である漆器や眼鏡など、独創的な意匠やものづくり育成をサポートする。
  2. 工芸に詳しくない子どもや大人、外国人に向けて、日常生活でも手軽に楽しめる工芸体験を提供する。
  3. 日本の伝統工芸に興味を持つ入口をつくり、将来的な学習、体験、職人育成につなげる。

特徴

  1. ユーザーが描いた意匠を、仮想表示だけでなく、実用用途にも展開できる。
  2. マーカーレス検知により、意匠取得から仮想出現までを短いフローで体験できる。
  3. 漆器では、下絵の黒色を出力時に金色へ変換するなど、工芸らしい見え方に調整できる。
  4. 漆器や眼鏡だけでなく、彫刻、陶芸、書道など、幅広い工芸領域に応用できる。
  5. 小学校の実習や教材として活用し、子どもや外国人を日本工芸ファンにすることを目指す。
  6. 実物化の注文、作品投稿、投票イベントなど、マネタイズやユーザー参加型の展開も想定する。

体験の入口を低くすることが目的

伝統工芸の価値を理解するには、本来は素材、技法、歴史、地域性など多くの知識が必要です。
しかし、最初から難しい知識を求めると、興味を持つ前に距離を感じてしまいます。

このアプリでは、まず「描いたものが工芸品になる」というわかりやすい体験から入ります。
そのうえで、素材や技法、職人の仕事、地域文化への関心へ広げていくことを目指しました。

アプリ内容

アプリ構成

手描きの意匠を、仮想工芸品として表示する

このアプリでは、ユーザーが紙に描いた絵柄や意匠を、スマートフォンやスマートグラスで読み取り、仮想工芸品として表示します。

例えば、子どもが下絵用紙に描いた模様を、アプリで認識します。
その模様を漆器や器、眼鏡などの素材と合成し、画面上で立体的に確認できるようにします。
これにより、ユーザーは「自分の絵が工芸品になった」という体験を得られます。

教育・試作・販売まで広げられる構成

アプリ上で表示するだけでなく、将来的には実物化や注文にもつなげられます。
たとえば、3Dプリンターや職人への制作依頼を通じて、ユーザーの意匠を実際の作品として届けることも考えられます。

また、学校やワークショップで使えば、伝統工芸の入口教材としても活用できます。
子どもが自分の模様を描き、それが漆器や器に反映されることで、工芸の世界をより身近に感じられるようになります。

出力フロー

仮想工芸品が表示されるまでの流れ

仮想工芸品の基本的な体験フローは、下絵を描き、アプリで読み込み、素材と合成し、仮想工芸品として表示するという流れです。

この流れはシンプルですが、体験としては非常にわかりやすく、ユーザーが自分の意匠を使って工芸品づくりに参加できる点が特徴です。

仮想工芸品の出力フロー

  1. ユーザーが定型の下絵用紙に絵柄を描く。絵柄は手書きでもPC制作でも可能。
  2. アプリを起動する。
  3. 端末で下絵用紙を見ると、特徴点を検出して絵柄を取り込む。
  4. 取り込んだ絵柄と器素材を合成する。
  5. 仮想工芸品として画面上に出力する。

仮想工芸品の出力活用例

仮想工芸品の出力活用例

  • 出力例A:下絵用紙の上に、仮想工芸品を出現させる。
  • 出力例B:スマートフォン端末やMOVERIOで覗くと、素材上に仮想下絵が出現し、作業補佐として活用できる。
  • 出力例C:スマートフォン、MOVERIO、サイネージを使い、試着シミュレーションとして活用する。
  • 出力例D:3Dプリンターや実物化の注文を通じて、ユーザーの手元に届ける。
  • 出力例E:投稿機能を使ってクラウドで共有し、投票イベントやコンテストを開催する。

メールやSNSに添付して送信することで、家族や友人に見せたり、作品として共有したりすることもできます。

仮想工芸品の共有イメージ

発案に至った体験

AR体験の衝撃

ぬりえARを見て感じた、表現の可能性

発案のきっかけの一つは、初めて「ぬりえAR」のような表現を見たときの驚きでした。
紙に描いた色や模様が、3Dモデルの表面テクスチャとして取り込まれ、画面上で動き出す。
その体験は、当時の私にとって非常に衝撃的でした。

2013年頃は、マーカーを利用したARが主流であり、マーカーレスARの精度や実用性にはまだ課題があると語られることも多い時期でした。
その中で、子どもが塗った絵が3Dキャラクターに反映され、動き出す表現は、「ARは見るだけではなく、自分の手で作ったものを拡張できる技術なのだ」と感じさせるものでした。

工芸体験にも応用できるのではないか

この体験を見たとき、私は「同じ考え方を伝統工芸にも応用できるのではないか」と考えました。
子どもが描いた模様を器や漆器に反映する。
自分の意匠が工芸品として表示される。
それがきっかけとなり、日本の伝統工芸に興味を持つ人が増えるかもしれない。

この発想が、「鯖江職人アプリ」の原型になっています。

日本工芸への危機感

本物の価値を、次の世代へどう伝えるか

もう一つのきっかけは、日本の伝統文化や技術が、正しく継承されなくなることへの危機感でした。

以前、海外の寿司レストランを取り上げた番組を見たことがあります。
そこでは、日本の寿司とは異なる作り方が「寿司」として提供され、それを食べる人たちも本来の寿司だと認識している様子が紹介されていました。
その番組を見たときは面白さも感じましたが、同時に、日本の伝統工芸にも同じようなことが起きるのではないかと考えました。

工芸離れが進むと、価値の理解も失われる

日本人自身が、自国の伝統工芸の価値を知らなくなっていく。
本物の技術や作法、素材の意味、地域ごとの違いを理解する人が減っていく。
そうなると、工芸品は単なる古いもの、難しいもの、高価なものとして見られ、本質的な魅力が伝わりにくくなります。

戦争や災害の記憶が、体験者や被災者が少なくなることで語り継ぎの重要性を増すように、伝統工芸もまた、体験や理解の機会をつくり続ける必要があると感じました。

ARやアプリを使うことで、まずは興味を持つ入口をつくる。
そこから本物の工芸品や職人の仕事に触れる人を増やす。
この企画には、そうした思いも込めています。

輪島での学び

職人さんから聞いた、後継者不足の現実

石川県輪島市を旅していた際、偶然出会った人間国宝の職人さんとお話しする機会がありました。
その中で教わったのが、伝統工芸における後継者不足の深刻さです。

国内各地には漆器の名産地があります。
その中でも「輪島」というトップブランドでさえ、後継者不足に悩んでいるという話は、非常に印象に残りました。

石川県輪島市での学び

修行期間と生活のハードル

職人を目指す人の多くは、芸大卒の学生や外国人だと聞きました。
しかし、学生を終えた後に輪島へ移り、職人として10年以上の修行を積むと、年齢は30代を超えていきます。
その間の収入は決して多くなく、地方ではアルバイトや副業の選択肢も限られます。

さらに漆器づくりは分業制であるため、各工程の職人が一人欠けるだけでも完成が難しくなります。
名人と呼ばれる方々も高齢化しており、今後20年で職人が激減する可能性があるという話は、伝統工芸の未来を考えるうえで大きな課題だと感じました。

アプリは職人育成の入口になれるか

もちろん、アプリだけで後継者不足を解決できるわけではありません。
しかし、工芸に興味を持つ人を増やす入口にはなれるかもしれません。

子どもが描いた模様が器になる。
外国人が日本の意匠を体験する。
学校の授業で、工芸の仕組みや工程を学ぶ。
そうした小さな体験の積み重ねが、将来の職人や工芸ファンを増やすきっかけになると考えました。

メディア掲載

新聞記事

日経MJで紹介された鯖江市の取り組み

日経MJ掲載記事大会終了後、複数のメディア関係者の方からインタビューをいただきました。
その中で、日経MJの記者の方にも取材いただきました。

残念ながら、私へのインタビュー内容は紙面には掲載されませんでしたが、新聞記者の方から新聞記事を郵送していただきました。
ご丁寧な対応に感謝しています。

鯖江市の取り組みが新聞に掲載されているのを見て、町おこしも兼ねたプロジェクト型イベントに少しでも参加できたことを、改めて嬉しく感じました。

ニュース掲載

ASCII・Exciteニュースでの紹介

ASCII様の記事では、「紙に描いた絵をアプリで読み込み、その絵柄を器に反映させて立体的に見せる」というコンセプトとして紹介されました。
また、伝統工芸の後継者不足を考えた企画であることや、アプリと教育への関心を背景にした提案であることにも触れていただきました。

ASCII様のニュース記事

http://ascii.jp/elem/000/000/893/893879/index-3.html

Exciteニュース様のニュース記事

http://www.excite.co.jp/News/anime_hobby/20140429/Animeanime_18480.html

外部メディアに掲載された意味

自分の企画がメディアで紹介されたことは、単なる記念ではなく、伝統工芸とARを組み合わせる発想に一定の関心を持っていただけたという意味でも大きな経験でした。

当時はまだ、スマートグラスやARが一般的な生活に浸透している時代ではありませんでした。
その段階で、ARを教育、工芸、地域資源、職人育成に結びつけて考えたことは、今振り返っても自分の企画の原点の一つだったと感じます。

まとめ

企画の学び

ARは、伝統工芸との接点をつくる入口になる

「鯖江職人アプリ」は、AR技術を使って伝統工芸を身近にする企画でした。
自分が描いた意匠をアプリで読み取り、漆器や器、眼鏡などに反映し、仮想工芸品として表示する。
その体験を通じて、工芸に詳しくない人でも、日本のものづくりに興味を持つきっかけをつくることを目指しました。

この企画を考えた背景には、AR表現への驚き、日本工芸への危機感、輪島で聞いた職人不足の現実がありました。
伝統工芸の継承は、技術だけの問題ではありません。
興味を持つ人を増やし、体験する場をつくり、学びの入口を広げることも重要です。

もちろん、アプリだけで伝統工芸の課題を解決することはできません。
しかし、子どもや外国人、工芸に詳しくない人が、最初の一歩として工芸に触れる仕組みにはなり得ます。

この経験は、私にとって「地域資源」「教育」「テクノロジー」「体験設計」を組み合わせて考える原点の一つになりました。
今後も、ただ便利なアプリを考えるだけでなく、人や地域の価値を伝える体験づくりを大切にしていきたいと思います。

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AR、工芸、ものづくり、地域資源、アプリ企画といったテーマは、その後の複数のアイデアにもつながっています。

他にも伝統工芸の企画が存在します

伝統工芸×ITソリューション

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