前談
楽しい思い出を思い出すきっかけをつくる記憶パートナーアプリ「想起-SOBA」
2022年9月、福岡市のエンジニアカフェを会場に開催された「認知症フレンドリーテック 第一回ハッカソン」に参加しました。
私たちのチームが開発したのは、楽しい思い出を思い出すきっかけをつくる記憶パートナーアプリ「想起-SOBA」です。
認知症の症状のひとつである「思い出しづらさ」に対して、LINE Botや通知、写真投稿などを活用しながら、本人のそばでやさしく記憶の想起を支えるプロトタイプとして制作しました。
このプロダクトで大切にしたのは、「忘れないように管理する」ことではありません。
むしろ、楽しかった記憶や大切な思い出に、もう一度出会えるきっかけをつくることです。
認知症のある方にとって、思い出せないことは不安につながる場合があります。一方で、過去の楽しかった出来事や家族との写真、誰かと一緒に過ごした時間に触れることは、その人らしさや安心感を取り戻すきっかけにもなります。
結果として、参加チームからの最多得票により「認知症フレンドリーテック賞」を受賞しました。
2日間という限られた時間の中で、社会課題、UX、テクノロジー、チーム開発が交差した、とても学びの多いハッカソンでした。
司会パンダ この記事で整理していること
- 認知症フレンドリーテック 第一回ハッカソンへの参加記録
- 認知症フレンドリーテックという考え方
- なぜこのテーマに参加しようと思ったのか
- 開発したプロダクト「想起-SOBA」の概要
- LINE Botや通知を活用した記憶想起の体験設計
- チーム内で担当したデザイナーとしての役割
- 受賞理由と、プロダクトデザインとしての学び
- 関連資料・動画・今後に活かしたい視点
01. 認知症フレンドリーテックとは
テーマ理解
認知症のある方が、自分らしく暮らし続けるためのテクノロジー

認知症フレンドリーテックとは、認知症のある方や認知機能が低下した方が、安心して暮らし続け、自分らしく力を発揮できるように、テクノロジーの力を活用していく考え方です。
ここで重要なのは、単に「困っていることを機械で代替する」という発想ではないことです。
認知症のある方にも、できること、楽しめること、続けたい生活があります。その人の暮らしや気持ちを尊重しながら、必要な部分を自然に支えることが大切になります。
福岡市は、2018年に「認知症フレンドリーシティ宣言」を行っており、認知症の人にもやさしいまちづくりに取り組んでいます。その流れの中で、企業・行政・医療・エンジニア・デザイナーなどが連携し、認知症フレンドリーな社会を実現するための取り組みが広がっています。
今回のハッカソンは、まさにその取り組みのひとつでした。
認知症に関するリアルな課題を学び、参加者同士でチームを組み、2日間でアイデアをプロトタイプまで形にしていくイベントです。
便利さだけではなく、生活に寄り添うこと
認知症に関するプロダクトを考えるとき、つい「忘れないようにする」「行動を管理する」「間違いを防ぐ」といった方向に寄りがちです。
もちろん、生活上の安全や安心は大切です。
しかし、それだけでは本人の楽しみや、その人らしい生活を支えることにはつながりにくい場合があります。
今回のハッカソンでは、技術的に何ができるかよりも先に、誰のどんな生活を支えたいのかを考えることが大切だと感じました。
司会パンダ 02. なぜ参加しようと思ったのか
参加背景
医療や介護だけでなく、これからのプロダクト設計にも関わるテーマ

認知症というテーマは、最初は自分にとって少し遠い領域のようにも感じていました。
しかし、事前に関連資料を読み進める中で、これは医療や介護だけの話ではなく、これからの社会全体、そしてプロダクト開発にも関わるテーマだと感じるようになりました。
認知症のある方が増えていく社会では、既存のサービスやアプリも「若くて健康な人だけがスムーズに使える設計」のままでは、使いづらさや不安を生んでしまう可能性があります。
たとえば、複雑な操作が多いアプリ、文字が小さい画面、通知の意味がわかりにくいサービス、失敗したときに不安を強めるエラーメッセージなどは、認知機能が低下している方にとって大きな負担になるかもしれません。
だからこそ、UI/UXデザインやプロダクト設計に関わる立場として、「認知症のある方にも使いやすい体験とは何か」「本人の尊厳や楽しみを損なわずに支援するにはどうすればよいか」を考えることに、大きな意味があると感じました。
事前に学んだこと
事前学習では、認知症の症状や生活上の困りごとだけでなく、「できないことを周囲がすべて代行する」のではなく、本人ができることを保ちながら、必要な部分を自然に補うことの大切さを学びました。
特に印象に残ったのは、テクノロジーは「管理するため」ではなく、その人の生活や楽しみを支えるために使うべきだという視点です。
これは、認知症領域だけでなく、すべてのサービス設計に通じる考え方だと思います。
ユーザーを管理するためのUIではなく、ユーザーが自分らしく行動できるように支えるUI。
今回のハッカソンに参加したことで、その視点を改めて意識するようになりました。
司会パンダ 03. ハッカソンの概要
イベント概要
2日間で課題理解からプロトタイプ制作・成果発表まで行う実践型イベント

「認知症フレンドリーテック 第一回ハッカソン」は、2022年9月24日・25日の2日間で開催されました。
会場は福岡市のエンジニアカフェ。オンライン参加も含めたハイブリッド形式で進行されました。
当日は、認知症ケアに関わる方、医療関係者、エンジニア、デザイナー、企画者など、さまざまな立場の参加者が集まりました。
最初に課題やアイデアを共有し、そのテーマに共感したメンバーがチームを組んで、2日間でプロトタイプ制作と成果発表を行う流れでした。

イベント進行イメージ
- 認知症フレンドリーテックに関するインプット
- 認知症に関する課題やアイデアの共有
- 参加者同士のチームビルディング
- 課題整理とコンセプト設計
- プロトタイプの開発
- 発表資料の作成
- 成果発表・審査・表彰
短期間だからこそ、課題設定が重要になる
ハッカソンでは、短時間で多くのことを決めなければいけません。
どの課題に向き合うのか、誰を主なユーザーとして考えるのか、どこまで実装するのか、何を発表で伝えるのか。
すべてを深掘りしようとすると、時間が足りなくなります。
だからこそ、最初に「このプロダクトは何を大切にするのか」を絞ることが重要でした。
今回のチームでは、認知症のある方が楽しい思い出にもう一度出会えることを大切にし、その体験をどう形にするかを考えていきました。
司会パンダ 04. 開発したプロダクト「想起-SOBA」
プロダクト概要
楽しい記憶にまた出会うための、そばにいる記憶パートナー

私たちのチームが開発したのは、「楽しい思い出を想起する!あなたの側で頼れる記憶パートナーアプリ『想起-SOBA』」です。
「想起」は、記憶を思い出すこと。
「SOBA」は、そばにいる存在という意味を込めた名前です。
認知症のある方にとって、日々の出来事や楽しかった記憶を思い出しづらくなることは、生活の不安だけでなく、自信や楽しみの喪失にもつながる可能性があります。
そこで私たちは、思い出を記録し、後から自然に思い出すきっかけをつくるLINE Botアプリを考えました。

YouTube動画
想起-SOBAの主な体験
- LINEから写真やメッセージで思い出を投稿する
- 投稿された内容をアプリ側で受け取り、思い出として記録する
- 後日、LINE通知を通じて思い出すきっかけを届ける
- 通知に気づきやすいように、必要に応じて補助的な仕組みも組み合わせる
- 本人や家族が、楽しかった出来事を振り返るきっかけをつくる
記憶を管理するのではなく、楽しい記憶に再会する
ポイントは、ただ記録するだけではなく、「楽しかったことを、あとから思い出せるようにする」ことです。
記憶の管理ツールではなく、本人の生活の中にそっと寄り添う記憶パートナーを目指しました。
たとえば、家族と出かけた写真、好きだった場所、楽しかった食事、誰かとの会話などを記録し、後日やさしく通知することで、「あのとき楽しかったね」と思い出すきっかけになります。
その体験は、本人だけでなく、家族や支援者にとっても会話の入口になります。
05. チームでの役割
担当領域
課題整理・体験設計・発表資料の見せ方を担当

私はチーム内で、主にデザイナーとして参加しました。
2日間という短い時間の中で、課題の整理、体験設計、画面イメージ、発表資料の見せ方など、プロダクトの意図が伝わるようにスライドへ整理する役割を担当しました。

ハッカソンでは、機能をたくさん盛り込むよりも、「誰の、どんな困りごとに対して、どの体験を届けるのか」を絞ることが重要になります。
特に今回は、認知症という繊細なテーマだったため、便利さだけでなく、安心感・やさしさ・本人の尊厳を損なわない表現を意識しました。

デザイン面で意識したこと
- 本人や家族が不安になりすぎない、やさしい言葉を使う
- アプリらしさよりも、普段使い慣れたLINEの延長で使える体験にする
- 機能説明ではなく「どんな生活場面で役立つか」を伝える
- 発表時に、課題・解決策・体験価値が一目で伝わる構成にする
- 認知症というテーマを重くしすぎず、前向きな体験として伝える
デザイナーとしての役割は、価値を翻訳すること
UIをきれいに整えるだけではなく、プロダクトの背景や価値を、チーム内外に伝わる形へ翻訳することも、デザイナーとして重要な役割だったと感じています。
今回でいえば、「LINE Botで写真を送る」という機能だけを説明しても、プロダクトの価値は伝わりません。
大切なのは、その機能によって、本人や家族の生活にどんな会話が生まれるのか、どんな安心感につながるのかを伝えることです。
そのため、発表資料では、機能よりも体験価値が伝わるように意識しました。
司会パンダ 06. 受賞:認知症フレンドリーテック賞
受賞結果
参加チームからの最多得票で、認知症フレンドリーテック賞を受賞

成果発表の結果、「想起-SOBA」は参加チームからの最多得票により、「認知症フレンドリーテック賞」を受賞しました。
受賞できた理由は、単にアプリとして面白かったからではなく、認知症のある方の生活に寄り添い、「思い出すこと」や「楽しかった記憶に触れること」を支えるというコンセプトに共感してもらえたからだと思います。
また、チームとしても、企画・デザイン・実装・発表準備を短時間で進める必要がありました。
それぞれの得意領域を活かしながら、最後までひとつの形にまとめきれたことが、とても良い経験になりました。
なぜ共感してもらえたのか
今回のプロダクトは、「忘れないようにする」「失敗しないようにする」という管理的な方向ではなく、「楽しい思い出にまた出会う」という前向きな体験に焦点を当てました。
この視点が、認知症フレンドリーテックの考え方と合っていたのではないかと感じています。
認知症のある方を、支援されるだけの存在として見るのではなく、楽しい記憶を持ち、家族や周囲の人と関係を育んでいく存在として捉えること。
その考え方を、短い発表時間の中でも伝えられたことが、受賞につながったのだと思います。
司会パンダ 07. 参加して学んだこと
学び
社会課題に向き合うプロダクトでは、当事者の生活文脈を理解することが重要

今回のハッカソンで特に学びになったのは、社会課題に向き合うプロダクト開発では「正しい解決策をすぐに出す」ことよりも、まずは当事者や支援者の声に耳を傾けることが重要だという点です。
認知症に関する課題は、一見すると「忘れることを防ぐ」「行動を管理する」といった方向に考えがちです。
しかし、本人にとって本当に大切なのは、自分らしく過ごせること、楽しみを持ち続けられること、周囲とのつながりを感じられることなのだと感じました。
その意味で「想起-SOBA」は、記憶を管理するアプリというよりも、楽しい思い出にまた出会うための小さな伴走者を目指したプロダクトでした。
プロダクトデザインとしての学び
- 社会課題では、課題設定の深さがプロダクトの価値を左右する
- 当事者の生活文脈を理解しないと、使われる体験にはならない
- テクノロジーは、管理ではなく自立や楽しみを支えるために使える
- 短期間の開発でも、コンセプトが明確であれば共感は生まれる
- デザイナーは、見た目だけでなく価値や体験を翻訳する役割を担える
- 本人だけでなく、家族や支援者との関係性まで含めて体験を考える必要がある
認知症領域だからこそ、言葉の選び方も重要
認知症に関するプロダクトでは、言葉の選び方にも注意が必要だと感じました。
「忘れた」「できない」「管理する」といった言葉は、使い方によっては本人や家族の不安を強めてしまう可能性があります。
一方で、「思い出す」「また出会う」「そばにいる」「楽しかった記憶に触れる」といった言葉は、同じ機能を説明する場合でも、受け取られ方が変わります。
プロダクトの価値は、機能だけでなく、言葉や表現にも宿るのだと学びました。
司会パンダ 08. 関連資料・動画
関連資料
ハッカソンの背景や当日の様子を知るための参考リンク

当日の様子や、認知症フレンドリーテックの背景については、以下の資料も参考になります。
認知症フレンドリーテックの背景
認知症フレンドリーテックの考え方や、なぜエンジニアやデザイナーがこのテーマに向き合う必要があるのかについては、以下の記事が参考になります。
なぜエンジニアが認知症フレンドリーテックについて知るべきなのか
Engineer Cafe レポート
ハッカソン全体の開催レポートはこちらです。
認知症フレンドリーテック 第一回ハッカソン|Engineer Cafe
成果発表・関連動画
成果発表や関連動画は、YouTubeのプレイリストでも確認できます。
関連プレイリスト
事前学習や関連資料として、以下のプレイリストも掲載しておくと、読者が背景理解を深めやすくなります。
資料を残す意味
ハッカソンで制作したプロトタイプは、短期間で作ったものです。
しかし、その過程で考えた課題設定や体験設計は、後から振り返ることで学びとして残ります。
関連資料や動画を一緒に整理しておくことで、単なる参加記録ではなく、社会課題に向き合ったプロダクト開発の実践記録として見返せるようになります。
09. まとめ
まとめ
テクノロジーは、誰かの生活を少し明るくするためにも使える

認知症フレンドリーテック第一回ハッカソンは、私にとって、社会課題とプロダクトデザインの関係を深く考えるきっかけになりました。
「想起-SOBA」は、2日間で制作したプロトタイプではありますが、認知症のある方の生活に寄り添い、楽しい記憶を思い出すきっかけをつくるというテーマに向き合えたことは、とても大きな経験でした。
今回の取り組みを通じて、テクノロジーは「効率化」や「管理」のためだけにあるのではないと感じました。
人の生活を少し明るくすること。
家族との会話を増やすこと。
思い出にもう一度触れるきっかけをつくること。
そうしたやわらかい価値も、プロダクトが届けられる大切な体験です。
この経験から得た学び
今回の経験から、特に以下の学びが残りました。
- 社会課題に向き合うときは、当事者の生活文脈を理解することが大切
- 認知症支援では、管理よりも本人らしい生活や楽しみを支える視点が重要
- LINE Botのような身近な接点は、利用ハードルを下げる可能性がある
- デザイナーは、機能だけでなく体験価値や言葉を翻訳する役割を担える
- 短期間のハッカソンでも、コンセプトが明確であれば共感は生まれる
- テクノロジーは、誰かの生活に寄り添う小さな伴走者にもなれる
これからも、UI/UXデザインやプロダクト開発に関わる中で、使いやすさだけでなく、人の生活や気持ちに寄り添う体験設計を大切にしていきたいと思います。
司会パンダ