INDEX
- 1 大阪・関西万博2025を、来場者とUI/UXデザイナーの両方の視点から振り返る
- 2 建築と夜間イベントには満足。 一方で、昼間は混雑と予約の難しさが体験を左右した
- 3 公式アプリ・予約Web・万博IDをまたぐ体験に見えた課題
- 4 会場に入って最初の1時間を、 ログインと予約対応に費やした
- 5 大阪・関西万博の象徴「大屋根リング」 ——移動・休憩・景観をひとつにした空間
- 6 空き枠を探す行動が「抽選ゲーム」になっていた現地予約体験
- 7 落合陽一プロデュース「null²」 ——建築そのものが動く鏡のメディア
- 8 「食べられる3Dプリンタ」から考える、食のパーソナライズと表現
- 9 国ごとに異なる展示密度と回遊方式 ——待ち時間にも影響する空間設計
- 10 科学・アニメ・医療を組み合わせ、未来を身近に伝える展示
- 11 見る展示から、自分が参加する展示へ——記憶に残るインタラクション
- 12 駆け込み需要による混雑と、「入場できないチケット」をめぐる課題
- 13 期待と懸念が交錯した開幕前から、「行くと印象が変わる」イベントへ
- 14 万博体験の課題は、ひとつのアプリではなく「サービス全体の連続性」にあった
- 15 建築の魅力は高く評価。一方で、予約と混雑を含むサービス体験には改善余地を感じた
本記事は「大阪・関西万博2025」をテーマにお話を伺っていきたいと思います。いつ頃、訪問されましたか?
私は、2025年6月に訪問しました。6月上旬の木曜と金曜に、2日間続けて会場を見て回りました。
訪問概要
大阪・関西万博2025を、来場者とUI/UXデザイナーの両方の視点から振り返る

2025年6月に2日間訪問
2025年6月上旬の木曜と金曜に、大阪・関西万博の会場を訪問しました。
当初から計画していた旅行ではなく、前日に12時入場のチケットを購入し、比較的急な予定で参加しました。
そのため、数か月前からパビリオン予約を行っていた来場者とは異なり、事前準備が十分ではない状態で、どの程度会場を楽しめるのかを体験することになりました。
結果として、この「準備が十分ではない一般来場者」の立場から、チケット、ログイン、予約、会場マップ、待ち時間表示など、サービス全体の使い勝手を確認できました。
来場者としての感想と、制作者としての分析
私は普段、自分が関わるプロダクトだけでなく、気になったアプリやWebサービスの画面遷移を書き出し、情報構造や操作導線を確認しています。
万博でも、単にパビリオンを見て楽しむだけでなく、来場前から会場内での行動、予約、移動、待ち時間、情報収集までをひとつのユーザー体験として観察しました。
本記事では、次の2つの視点から万博を振り返ります。
- 来場者としての視点:建築、展示、イベント、混雑、待ち時間を実際に体験した感想
- UI/UXデザイナーとしての視点:公式アプリ、ログイン、予約導線、混雑情報、会場内の体験設計に関する分析
期待していたこと
大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」です。
私は、最新テクノロジーそのものを見るだけでなく、デジタル技術や空間演出を利用して、どのように新しい体験をつくっているのかに関心を持っていました。
特に期待していたのは、次のような点です。
- アプリと現実の会場を連携させた回遊体験
- 混雑や待ち時間をデジタルで解決する仕組み
- 映像、音響、鏡、ロボットなどを活用した展示表現
- 未来の医療、食、モビリティに関する体験型展示
- 国や文化の違いを体験として伝える空間デザイン
一方で、会場へ到着して最初に直面したのは、展示そのものではなく、ログインや予約に関するデジタル体験の難しさでした。
会場体験
建築と夜間イベントには満足。
一方で、昼間は混雑と予約の難しさが体験を左右した
昼間と夕方以降で印象が大きく変化
昼間の会場では、人気パビリオンの多くが長時間待ちになっていました。
炎天下の中で2時間以上並ぶ必要があるパビリオンもあり、当日予約の空き枠もすぐに埋まるため、思うように展示を見られない時間が続きました。
特に17時頃までは、大屋根リングを見ることができた以外、期待していたパビリオン体験をほとんど得られず、満足度は低い状態でした。
一方で、17時以降は昼間よりも比較的回遊しやすくなりました。
結果的には、小規模な展示や共同館を含めて20施設程度を見て回り、ドローンショー、ダンス、ライトアップなどの夜間イベントも楽しめました。
展示内容よりも運用体験が印象を左右する
展示自体が魅力的であっても、予約できない、待ち時間が長い、場所がわかりにくい、同行者と同じ予約を取れないといった問題があると、来場者は展示へたどり着く前に疲れてしまいます。
これはテーマパーク、観光施設、大規模イベントなどにも共通する課題です。
体験価値は、メインコンテンツだけで決まるものではありません。
- チケットを購入する
- 来場日時を予約する
- アプリへログインする
- 見たい展示を探す
- 空き枠を確認する
- 予約する
- 会場内を移動する
- 待ち時間を過ごす
これら一連の行動を含めて、来場者の満足度がつくられます。
万博では、建築や展示そのものよりも、それらへ到達するまでの導線にストレスが集中していた印象があります。
アプリUX分析
公式アプリ・予約Web・万博IDをまたぐ体験に見えた課題

大阪・関西万博のアプリ画面遷移を書き出したんですか?
そうですね。自分が携わるプロダクトや、操作していて気になったプロダクトは、画面を書き出して構造を確認するようにしています。
複数の公式サービスを使い分ける必要があった
大阪・関西万博では、会場マップや施設情報を確認する「EXPO 2025 Visitors」、来場者に情報を提案する「EXPO2025 Personal Agent」、チケットやパビリオン予約を管理するWebサイトなど、複数のサービスが提供されていました。
それぞれのサービスには役割がありますが、利用者から見ると、「どの操作を、どのサービスで行うのか」がわかりにくい場面がありました。
たとえば、アプリでパビリオン情報を見つけても、予約時には別のWeb画面へ移動することがあります。
Web画面へ移動した後は、再び万博IDによるログインが求められる場合があり、利用者はアプリとWebサイトを行き来する必要があります。
アプリ内で体験が完結しない問題
来場者から見れば、「万博の公式アプリ」というひとつのサービスを利用している感覚です。
しかし、内部では複数のアプリ、Webサイト、認証機能が連携しており、画面デザインやナビゲーションのルールも異なります。
そのため、利用者は次のような疑問を持ちやすくなります。
- 現在、アプリとWebサイトのどちらを操作しているのか
- アプリでログインしたのに、なぜもう一度ログインが必要なのか
- 予約後に、どの画面へ戻ればよいのか
- 選択したパビリオンの情報は引き継がれているのか
- 予約状況は、どのサービスで確認すればよいのか
システム上は異なるサービスであっても、利用者にとってはひとつの万博体験です。
サービス間をまたぐ際に、現在地、選択内容、ログイン状態が途切れない設計が必要だったと感じます。
ネット上で見られた低評価
アプリの不評は、世間的にも大きかったですよね。実際の評判はどうだったんでしょうか?
気になったので、閉幕が近づいた2025年9月にネット記事やアプリストアの評価を改めて確認しました。
来場者からは「操作が分かりにくい」「動作が重い」「予約中にエラーが発生する」「アプリ内で完結せずWebサイトへ移動する」といった不満が多く見られました。
私が確認した時点では、Google Playでも星1点台の低い評価が目立っていました。
不評の中心は2つの重要タスクだった
私の分析では、不評の大きな要因は、次の2つの重要タスクに集中していたのではないかと考えています。
- ログインと認証:万博IDを利用して各サービスへアクセスするまでの導線
- パビリオン予約:空き枠のあるパビリオンを探し、予約を完了するまでの導線
どちらも、来場者が万博を楽しむうえで避けて通れないタスクです。
利用頻度が低い補助機能ではなく、最初に必ず利用する機能と、最も利用したい機能で大きな負担が発生していました。
失敗後に最初からやり直す予約フロー
予約リストでは、候補を探し、数ページ進んで応募し、満席やエラーになると、再び最初の画面へ戻るケースがありました。
次の候補へ応募するために、同じ画面遷移や検索条件の指定を繰り返す必要があります。
これは、利用者が失敗することを十分に想定していないフローです。
人気パビリオンでは、予約に失敗することの方が多いため、「成功時」よりも「失敗後にどう立て直すか」の設計が重要になります。
改善案としては、次のような方法が考えられます。
- 失敗しても検索結果一覧へ戻す
- 選択した日付や時間帯を保持する
- 満席の候補を一覧上で無効化する
- 近い時間帯の空き枠を自動で提示する
- キャンセル待ちや通知登録へ切り替える
- 予約失敗後に、別候補を横並びで案内する
失敗するたびに最初からやり直すのではなく、利用者の入力や選択を引き継ぐだけでも、操作負担は大きく下げられたと考えます。
入場直後の体験
会場に入って最初の1時間を、
ログインと予約対応に費やした
前日購入・12時入場で訪問
まず、6月の大阪・関西万博はどのような状況でしたか?
6月上旬の木曜と金曜に、12時から入場できるチケットを前日に購入して訪問しました。
公式アプリを利用すれば、マップ、パビリオン、イベント、飲食店などの情報をスマートフォンひとつで確認できると聞いていました。
ログイン問題の解決に約1時間
実際には、予約機能を利用するためのログインやサービス連携に手間取り、解決するまでに約1時間かかりました。
会場へ入場した直後は、最も気持ちが高まり、次に何を見るかを決めたい時間です。
しかし、その時間をスマートフォンの操作に使うことになり、パビリオンを見る前に疲労が蓄積しました。
さらに、ログインやページ移動を繰り返す間にスマートフォンのバッテリーも減っていきます。
会場内では、マップ、予約、写真撮影、連絡、決済など、多くの用途でスマートフォンを使用するため、最初の段階でバッテリーを消耗することは大きな不安につながります。
現地で問題が発生した時の支援設計
事前に設定を完了していない来場者も一定数存在します。
そのため、現地では次のような支援が必要だったと感じました。
- 入場後に行うべき初期設定を1画面で案内する
- ログイン状態と連携状態を可視化する
- 問題が発生した場合の解決方法を短く案内する
- スタッフへ相談できるデジタルサポート拠点をわかりやすく表示する
- ログインせず利用できる機能を明確に分ける
エラーの発生を完全に防ぐことは困難でも、利用者が現在の状態と解決方法を理解できれば、不安やストレスは減らせます。
人気館は2時間待ち
ログイン問題を解決して会場を回り始めた頃には、人気パビリオンの多くが2時間待ちでした。
炎天下の暑さもあり、正直なところ、入場直後からかなり疲れてしまいました。
パビリオンへ入れない状況でも楽しめるように、空いている展示、休憩場所、短時間イベントなどを提案する仕組みがあると、待ち時間そのものを別の体験へ変えられた可能性があります。
建築体験
大阪・関西万博の象徴「大屋根リング」
——移動・休憩・景観をひとつにした空間


会場へ入って最初に目に入る巨大建築
万博のゲートを抜けると、最初にどのような景色が広がっていましたか?
真っ先に目へ飛び込んできたのは、会場をぐるりと囲む巨大な木のリングでした。
幅のある木造の回廊が延々と続いていて、「これがすべて木でできているのか」と思わず立ち止まってしまいました。
近未来的なパビリオンに囲まれながら、日本の森や伝統建築を連想させる、不思議な空間でした。

建築に込められた主な考え方
木造による伝統と先端性の融合
木材の温かみを持ちながら、巨大な環状構造へ挑戦することで、日本の伝統的な木造技術と現代建築を組み合わせています。
多様な会場を包み込む象徴性
リングが会場全体を囲むことで、国や文化の異なるパビリオンと来場者をひとつの空間へまとめています。
自然との調和とサステナビリティ
自然素材である木を主体に使い、再利用や循環を含めた建築として計画されました。
移動・休憩・眺望を兼ねた公共空間
単なる屋根や通路ではなく、日陰、休憩、会場の回遊、上部からの眺望など、複数の役割を持つ空間として機能していました。
炎天下で感じた日陰の価値
実際にリングの下を歩くと、どのような感覚でしたか?
真夏の日差しの中でも、リングの下へ入ると日陰になり、安心感がありました。
木の温もりと日陰の快適さが共存していて、「歩くための森のトンネル」という言葉が近いと思います。
移動するだけでなく、ベンチへ腰をかけて空を眺める人もいて、単なる通路以上の価値を感じました。

過去と未来が共存する表現
大屋根リングは、とても異彩を放っていました。
ただ古い素材を使っているのではなく、伝統的な木材を利用しながら、世界最大級の木造建築へ挑戦している点に、未来と過去が共存している感覚を覚えました。
外国から来た観光客が、「これが日本らしい未来なんだね」と話しているのを耳にして、少し誇らしくもなりました。

昼と夜で変化する景観
写真映えするスポットとしても人気があったんですか?
木組みの梁が青空に映えて、とても印象的な写真が撮れました。
夜になると、ライトアップされたリングとドローンショーが重なり、昼間とは異なる景観を楽しめました。

閉幕後の活用に残る課題
存在感も美しさも素晴らしい建築でしたが、「閉幕後にどのように残すのか」という点には課題を感じます。
環境負荷やコストを考えると、再利用や別の場所での活用方法を、さらに具体的に来場者へ示してもよかったのではないでしょうか。
人々の心に残る建築だっただけに、一過性のイベント設備として終わってしまうのは惜しいと感じました。
建築物の価値は、完成時の美しさだけでなく、利用中と利用後まで含めて評価されます。
万博の象徴として高く評価されたからこそ、解体・保存・再利用のプロセス自体も展示として伝えられれば、サステナビリティの学びにつながったと考えます。
予約・混雑
空き枠を探す行動が「抽選ゲーム」になっていた現地予約体験

空き枠が表示されても数秒で終了
各パビリオンのページから、外部サイトへ移動して予約や抽選ができると聞いていました。実際はどうでしたか?
現地での予約は、「ジャンボ宝くじへ応募している」ような感覚でした。
空き枠が表示されても、1〜2秒で受付終了になります。
再び応募先を探すためには最初のページへ戻り、同じ画面遷移を何度も繰り返す必要がありました。
予約失敗が前提になっていない画面設計
人気サービスでは、申し込み成功よりも失敗の方が多くなる場合があります。
チケット販売、宿泊予約、限定商品の購入などと同様に、多くの人が同時に操作するサービスでは、「取れなかった利用者を次の行動へ案内する設計」が必要です。
万博の予約体験では、失敗後に次の候補へ進む支援が少なく、同じ操作を繰り返す状態になっていました。
改善するなら、以下のような導線が考えられます。
- 現在空いているパビリオンだけを一覧表示する
- 選択中に空き枠がなくなった場合、近い時間帯を提案する
- 同じエリアで予約可能な別パビリオンを提示する
- 検索条件とスクロール位置を保持する
- 予約できなかった枠を一時的に非表示にする
- 空き枠通知へ登録できるようにする
事前予約の有無で体験格差が生まれる
私の体験では、3か月前から事前予約をしていない場合、1週間前や当日の予約だけで人気パビリオンへ入るのは、かなり難しい印象でした。
事前に情報収集し、予約ルールを理解している来場者と、初めて訪れる来場者の間で、体験できる内容に大きな差が生まれます。
大規模イベントでは一定の差が生じることは避けられませんが、事前予約が取れていない人向けの推奨プランを明確にすることで、不満を軽減できた可能性があります。
待ち時間表示と実際の選択肢
ほとんどのパビリオンが2時間待ちで、9月上旬のイタリア館は7時間待ちだったと訪問した友人から聞きました。館内も混雑すると大変そうですね。
2025年6月のアップデートでは、「待ち時間」「予約のみ受付」「休止中」といった状態が表示されるようになったと聞きました。
ただ、実際に会場で探すと、「すぐ入れます」と表示される人気館や飲食店は、ほとんど見つけられませんでした。
空き枠を見つけても、わずかな時間差で受付終了になります。友人と同じパビリオンを予約するための連携方法も、非常にわかりづらい印象でした。
同行者単位の体験設計
万博は、家族、友人、カップル、団体で訪れる人が多いイベントです。
個人単位の予約だけでなく、同行者と同じ体験を共有するための設計が重要になります。
- 同行者グループの作成
- 空き枠の人数条件による絞り込み
- 代表者による一括予約
- 予約結果のメンバー共有
- 異なる予約になった場合の調整支援
個人の予約成功率だけでなく、グループ全体が同じ行動を取れるかという視点も必要だったと感じます。
シグネチャーパビリオン
落合陽一プロデュース「null²」
——建築そのものが動く鏡のメディア


景色を歪ませながら動く外装
外から見たインパクトが、とても大きいパビリオンでしたね。
外装には高反射の鏡面パネルが使われ、低音の振動や機械的な制御によって鏡面がたわみます。
周囲の風景を映すだけでなく、建物が呼吸しているように景色を歪ませるため、「生きている彫刻」のように見えました。
凸凹する鏡によって自分や周囲の像が変形する、光学的な演出も美しかったです。
建物がディスプレイになる発想
一般的な展示施設では、建築は展示を収容する箱として機能します。
null²では、外壁そのものが動き、光と風景を変化させるため、建物自体が展示メディアになっていました。
スマートフォンやデジタルサイネージのような平面的な画面だけでなく、建築全体をインターフェースとして扱う発想に魅力を感じました。
予約開始直後に受付終了
当日予約の受付時刻が14時、16時などに設定されていると聞いて待機しましたが、受付開始からほぼ一瞬で埋まり、予約できませんでした。
魅力的な展示であるほど予約が集中します。
その結果、体験できた人と外観だけを見た人で、受け取れる情報量に大きな差が生まれます。
予約できなかった人に対しても、外部展示、短縮映像、解説コンテンツなどで体験の一部を共有できる設計があると、展示の思想をより多くの来場者へ届けられたと考えます。
内部展示「鏡の森」への期待
館内は「鏡の森」と呼ばれ、床や天井の鏡面・LEDによって、上下へ無限に空間が広がるような演出だったそうですね。
中央にはモノリス状のスクリーンがあり、鏡張りの柱型ディスプレイに囲まれ、上下左右の感覚が揺さぶられる没入空間だったと紹介されていました。
実際に体験できなかったことは残念でしたが、外観だけでも、素材、振動、反射、音を組み合わせた空間表現の可能性を感じられました。
フードテック
「食べられる3Dプリンタ」から考える、食のパーソナライズと表現


デジタルデータから食品の形をつくる
会場では、食べられる素材を積層し、デジタルデータをもとに食品の形をつくる3Dプリンタの展示も見ました。
3Dプリンタというと、樹脂や金属を使ったものづくりを連想しますが、食品へ応用することで、見た目、食感、栄養、量を個別に調整できる可能性があります。
食事を個人に合わせる未来
食の3Dプリンタは、単に珍しい形のお菓子をつくるためだけの技術ではありません。
将来的には、次のような用途も考えられます。
- 年齢や体調に合わせた栄養量の調整
- 噛む力や飲み込む力に合わせた形状設計
- アレルギーや食事制限への個別対応
- 必要な人数分だけを出力する食品ロス対策
- 料理人やデザイナーによる新しい造形表現
技術展示を日常生活へ結びつける説明
未来技術の展示では、「技術的に何ができるか」だけでなく、「生活のどの課題を解決するか」を伝えることが重要です。
来場者が自分や家族の生活へ置き換えて考えられるストーリーがあると、単なる珍しい機械ではなく、未来の選択肢として理解しやすくなります。
海外パビリオン
国ごとに異なる展示密度と回遊方式
——待ち時間にも影響する空間設計
海外パビリオンでは、どの国が人気だったのでしょうか?
イタリア館・アメリカ館への注目
イタリア館とアメリカ館は、特に注目されていました。
イタリア館では、美術品の展示や日本との関係を紹介する映像があり、一度に案内できる人数が限られているため、待ち時間が長くなりやすい構造だったようです。
展示内容が充実していても、一度に体験できる人数が少ない場合、待機列が長くなります。
大規模イベントでは、展示の質と同時に、1時間あたりに何人が体験できるかという回転率も体験設計の重要な要素になります。
周遊型展示のフランス館・スペイン館
フランス館やスペイン館はどうでしたか?
フランス館やスペイン館は、複数の展示ブースを順番に見て回る周遊型の構成でした。
来場者がひとつの場所へ長く留まりにくいため、人の流れが途切れにくい印象があります。
17時以降でも90分ほど待ちましたが、ルイ・ヴィトンなどの展示はビジュアル面でも格好よく、空間演出を楽しめました。
中国館——外観と展示内容の印象差
中国館はどうでしたか?

炎天下の中で約2時間並びました。
外観は独特で面白く、入場前の期待は高まりました。
一方で、館内ではパンダなどをテーマにしたデジタルサイネージ展示がありましたが、展示方法については、少し以前の科学館のような印象を受けました。

待ち時間によって高まる期待値
2時間待った場合、来場者は展示内容に対して無意識に高い期待を持ちます。
待ち時間が長いほど、展示が平均的だった場合の落差も大きくなります。
満足度は展示内容だけでなく、次の関係でも変化します。
- 待ち時間
- 事前に得た評判
- 外観から受ける期待
- 実際の展示時間
- 体験後に得られる記憶や学び
待ち時間を短くできない場合は、待機中にも展示の背景や文化を学べる工夫があると、体験全体の価値を高められます。
アメリカ館
——月の石との対面
アメリカ館はどうでしたか?
アメリカ館では「月の石」が大きな見どころでした。
貴重な資料として注目を集めていましたが、実際に目の前で見られた時間は5秒ほどでした(笑)。
それでも、本物を直接見るという体験には、写真や映像とは異なる価値があります。

本物を見る体験をどう深めるか
貴重な展示物の前では、安全性と回転率のために立ち止まれる時間が限られます。
そのため、展示の前後で、由来、採取方法、科学的価値、歴史的背景などを補足することで、短い対面時間でも理解を深められます。
本物を見る瞬間だけでなく、前後のストーリーを含めて体験を設計することが重要です。
国内・企業パビリオン
科学・アニメ・医療を組み合わせ、未来を身近に伝える展示
国内や企業パビリオンには、どのような魅力がありましたか?
現地で知った日本館の人気
現地を見る前は、海外パビリオンの方が人気だと思っていました。
しかし、実際に会場で知ったのは、日本館も非常に人気が高かったことです。
展示面積も大きく、火星由来の隕石など、普段は直接触れる機会がない展示も注目されていました。午前中のうちに当日予約が埋まる日もあったようです。

ガンダム館
——巨大キャラクターを現実空間へ
企業パビリオンも気になりますね。
ガンダム館では、全長約17メートルの実物大ガンダムが大きな見どころでした。
アニメの中に存在するキャラクターを、現実のスケールで体感できるため、多くのファンが訪れていました。
キャラクターIPを利用した展示は、作品を知っている人にとって強い来場動機になります。
一方で、作品を知らない来場者にも、ロボット技術、宇宙開発、未来社会と結びつけて説明することで、展示の対象を広げることができます。
パソナ館
——未来医療をキャラクターで案内
パソナ館では、iPS細胞に関連する未来医療の展示があり、ブラック・ジャックや鉄腕アトムなどのキャラクターが案内役として使われていました。
専門的な医療技術を、親しみやすいキャラクターを通して紹介する体験がユニークでした。
医療や科学の内容は、専門用語が多くなりやすい領域です。
キャラクター、映像、ストーリーを使うことで、知識がない来場者にも関心を持ってもらいやすくなります。
ただし、わかりやすさだけで終わらず、詳しく知りたい人が追加情報へ進めるように、情報の深さを段階的に設計することも重要です。
体験型コンテンツ
見る展示から、自分が参加する展示へ——記憶に残るインタラクション
体験型のコンテンツもあったんですか?
NTTパビリオンの立体映像体験
NTTパビリオンでは、Perfumeを題材にした立体的な映像・音響体験が用意されていました。
画面を見るだけではなく、目の前に人物が存在するような感覚をつくる展示として注目されていました。
映像技術の説明だけを行うのではなく、来場者が知っているアーティストを題材にすることで、技術の価値を直感的に伝えやすくなります。
ガスパビリオンの参加型アトラクション
ガスパビリオンでは、来場者自身がお化けに変身するような参加型体験がありました。
受け身で映像を見るだけではなく、自分がコンテンツの一部になるため、子どもから大人まで楽しみやすい企画だと思います。
身体を使う体験は記憶に残りやすい
来場者自身が動く、選ぶ、変化する展示は、説明パネルを読む展示よりも、体験後の記憶に残りやすくなります。
体験型展示を設計する際には、次の要素が重要です。
- 参加方法が短時間で理解できる
- 体験前に結果がすべてわからない
- 自分の行動によって映像や音が変化する
- 同行者と一緒に楽しめる
- 写真や動画として記録したくなる
待ち時間と体験時間のバランス
やはり待ち時間は長いのでしょうか?
人気館は数時間待ちになる場合があり、会期後半には、朝の段階で入場規制や予約終了になるケースもあったようです。
一方で、30分程度で入館できる穴場パビリオンもあり、「混雑日は空いている館を中心に回る」「複数日に分けて訪れる」といった楽しみ方をするリピーターも多かったようです。
人気順だけで表示するのではなく、現在地、待ち時間、体験時間、興味ジャンルを組み合わせて提案できれば、来場者の選択肢を広げられます。
閉幕前の運営
駆け込み需要による混雑と、「入場できないチケット」をめぐる課題
閉幕直前に増えた来場者
9月に入ってからの混雑状況は、どうだったのでしょうか?
閉幕が近づくにつれて、来場者数はさらに増えていきました。
特に9月下旬の土日祝日は、非常に混雑する日が続くと予想され、会場側も追加の混雑対策を発表していました。
実施された混雑対策
開場時刻を通常より前倒しする対応が行われました。
また、西ゲートの利用を促すため、東ゲートから西ゲートへ徒歩で移動できるルートの利用時間が拡大されました。
駐車場や待機列の運用、シャトルバスなどを含め、入退場時の混雑を緩和する対策が実施されました。
会場へ入る前から始まるUX
入場体験は、ゲートを通過してから始まるものではありません。
- どのゲートを選ぶか
- 駅からどのように移動するか
- どの時間に到着すればよいか
- 荷物検査や待機列に何分かかるか
- 帰りの交通手段を予約できるか
これらの情報がわかりやすく提供されることで、来場前の不安を減らせます。
「死に券」と呼ばれた未使用チケット
閉幕直前には、「死に券」という言葉も話題になりましたね。
日時指定が必要であることを十分に理解せず、日時未定のチケットを購入した人が、予約枠が埋まったことで入場日時を確保できないケースが発生しました。
未使用のチケットが大量に残り、「死に券」と呼ばれるようになりました。
購入可能と利用可能は異なる
チケットを購入できても、希望日に入場できなければ、利用者にとっては「購入したサービスを利用できない」状態です。
購入画面では、次の点をより強く伝える必要があります。
- チケット購入後に日時予約が必要であること
- 購入時点では入場日時が確保されていないこと
- 混雑時には希望日を予約できない可能性があること
- 現在予約可能な日付
- 利用できなかった場合の対応方針
重要な条件を利用規約の中だけに書くのではなく、購入判断を行う画面上で明確に伝える必要があります。
払い戻しをめぐる議論
払い戻しはできなかったのでしょうか?
払い戻しを求める声もありましたが、希望日に予約できないことを理由とする払い戻しは行わない方針が示され、対応をめぐって議論が続きました。
運営上の規約が正しくても、利用者の認識と大きな差がある場合、サービスへの信頼は低下します。
規約の正しさだけでなく、購入前に利用者が条件を理解できたかという視点が重要です。
閉幕前の盛り上がり
一方で、終盤は盛り上がりもあったと聞きました。
花火などの夜間イベントが増え、「最後にもう一度行きたい」「終わってしまうのが寂しい」という声も多くなりました。
西ゲート発の夜間シャトルバスを予約制にするなど、退場時の混雑緩和策も強化されました。駆け込み需要と閉幕ムードが重なり、会場全体の熱量は高まっていたと思います。
開催前後の評価
期待と懸念が交錯した開幕前から、「行くと印象が変わる」イベントへ
開催前に期待されていた未来技術
開催前の世間の雰囲気は、どのようなものでしたか?
万博には、未来社会への期待や、関西の地域活性化に対する前向きな見方がありました。
テーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」であることから、iPS細胞をはじめとする医療技術、ロボット、モビリティ、食、デジタル技術など、未来を体感できる実験の場として注目されていました。
また、世界各国の文化や技術を一度に体験できることや、関西から世界へ情報を発信する機会としての期待もありました。
建設費・工事・運営への懸念
一方で、工事が間に合わない、赤字になるのではないか、衛生面は大丈夫なのかなど、ネガティブなニュースも多かったですよね。
会場建設費の増加、パビリオン工事の遅れ、高額な設備、大屋根リングの必要性など、費用や準備に関する議論が続きました。
また、目標来場者数を集められるのか、入場予約システムが機能するのかといった、運営面への不安もありました。
ミャクミャクへの評価の変化
公式キャラクターの「ミャクミャク」も、発表当初は奇抜な見た目に戸惑う声がありました。
しかし、会期が進むにつれて、グッズ、会場装飾、SNSなどを通じて親しまれる存在になりました。
キャラクターデザインは、最初に見た瞬間の好感度だけでなく、繰り返し接触することで意味や愛着が形成されることを示す事例だと感じます。
開幕後に変化した評価
実際に開幕してから、評価はどのように変わったのでしょうか?
「百聞は一見に如かず」という言葉の通り、実際に会場を訪れた人からは、「思っていたより良かった」「もう一度行きたい」という声も増えていきました。
開催前は費用や準備不足への批判が目立ちましたが、開幕後は、大屋根リング、各国のパビリオン、夜のイベントなど、現地でしか得られない体験が評価されたのだと思います。
満足度は期待値と負担の差で決まる
来場者アンケートでは満足と答えた人も多かったようですが、パビリオンによって評価は異なりそうですね。
混雑、予約、暑さ、移動などの負担を、展示体験がどれだけ上回ったかが、総合評価の判断軸になると思います。
同じ会場を訪れても、予約状況、入場時間、同行者、天候、体力、見られたパビリオンによって評価は大きく変わります。
イベント全体の平均評価だけではなく、どの条件で満足度が上がり、どの条件で下がったのかを分析することが、次の大型イベントの改善につながります。
デザイナー視点の分析
万博体験の課題は、ひとつのアプリではなく「サービス全体の連続性」にあった
アプリ単体の問題として捉えない
万博のデジタル体験は、ひとつのアプリだけで完結していません。
チケット購入、万博ID、来場日時予約、パビリオン予約、マップ、待ち時間表示、交通案内など、複数のサービスをまたいで構成されています。
そのため、個別画面のUIを改善するだけでは、根本的な問題は解決できません。
利用者が行う一連の行動を、ひとつのジャーニーとして設計する必要があります。
来場前・来場中・来場後をつなげる
| フェーズ | 主な行動 | 想定される課題 |
|---|---|---|
| 来場前 | チケット購入、日時指定、事前予約 | ルールが複雑、予約時期を理解しにくい |
| 入場前 | 交通確認、ゲート選択、ログイン | 複数サービスの使い分けが必要 |
| 来場中 | 地図、予約、待ち時間確認、移動 | 情報の更新速度、バッテリー、混雑 |
| 体験中 | 展示鑑賞、参加、撮影 | 待ち時間と体験時間の差 |
| 退場時 | シャトルバス、駅移動、混雑回避 | 帰宅手段の集中 |
| 来場後 | 記録、共有、再訪計画 | 体験履歴が分散する |
優先すべき改善ポイント
私が改善の優先度が高いと感じたのは、次の5点です。
- ログインの一元化:アプリとWebサイトをまたいでも、認証状態を維持する
- 予約失敗後の再行動:入力内容を保持し、別候補へすぐ進める
- 混雑時の代替提案:空いている館、短時間イベント、休憩場所を提案する
- 同行者との共有:グループ単位で予約・行程を管理する
- 現在地の明確化:複数サービスを移動しても、元のタスクへ戻れるようにする
失敗体験を設計対象にする
人気イベントでは、希望どおりに予約できないこと、混雑していること、待ち時間が発生することを完全には避けられません。
だからこそ、成功する利用者だけでなく、予約に失敗した利用者、見たい展示へ入れなかった利用者を、次の選択肢へ案内する設計が重要です。
- 予約できなかった
- 待ち時間が長すぎる
- 同行者と別の予約になった
- バッテリーが少ない
- 天候が変化した
- 予定より滞在時間が短くなった
このような状況に合わせて、現実的な代替案を提示できれば、イベント全体への評価を下げずに済む可能性があります。
リアル空間とデジタルの役割分担
万博の魅力は、大屋根リング、パビリオン、展示物、音、照明、人々の熱気など、現地でしか得られない体験にあります。
アプリの役割は、現実空間を置き換えることではありません。
来場者がスマートフォンを見る時間を減らし、より多くの時間を現実の展示や人との交流に使えるようにすることです。
操作が複雑なアプリは、来場者の視線を会場から奪います。
優れたデジタル体験は、必要な時に短時間で使え、用事が終わればすぐに現実空間へ戻れるものだと考えます。
まとめ
建築の魅力は高く評価。一方で、予約と混雑を含むサービス体験には改善余地を感じた
大屋根リングは最も印象に残った体験
総合的には、どのような評価になりましたか?
私の感想としては、17時頃までは大屋根リングには満足したものの、パビリオンをほとんど見られず、評価は低い状態でした。
17時以降は、20施設程度の展示、ドローンショー、ダンスなどを見ることができ、会場全体の雰囲気を楽しめました。
ただし、最新技術や新しい展示方法について、期待していたほど大きな驚きや感動を得られなかった部分もあります。
人へ薦めるには条件の説明が必要
大阪・関西万博を楽しめるかどうかは、事前予約、入場時間、混雑、天候、滞在時間によって大きく変わります。
そのため、単純に「おすすめ」「おすすめしない」と評価するよりも、次の条件を説明する必要があります。
- 見たいパビリオンがあるなら、早い時期に予約する
- 当日予約だけに依存しない
- 夕方以降のイベントや夜景も含めて計画する
- 人気館だけでなく、空いている共同館も候補に入れる
- 暑さ対策とスマートフォンの充電対策を行う
ポートフォリオとしての見どころ
本記事では、万博の感想を紹介するだけでなく、来場者体験を次の観点から分解しました。
- 複数の公式サービスをまたぐ情報設計
- ログインと予約という主要タスクの課題
- 予約失敗後のリカバリー導線
- 混雑時の代替案提示
- 同行者を含むグループ体験
- 待ち時間と展示満足度の関係
- リアル空間とデジタルサービスの役割分担
大型イベントから学んだこと
大阪・関西万博は、建築、テクノロジー、文化、医療、エンターテインメントが集まる大規模イベントでした。
その一方で、魅力的なコンテンツが多いほど、「どのように探すか」「どのように予約するか」「どのように移動するか」という情報設計の重要性が高まります。
展示をつくることと、展示へたどり着く体験をつくることは、別々ではありません。
来場前から退場後までをひとつのサービスとして設計することが、今後のテーマパーク、観光地、大型イベントに求められると感じました。
建築や夜のイベントには魅力を感じましたが、予約や混雑を含めた総合体験には改善の余地がありました。
UI/UXデザイナーとしては、魅力的なコンテンツをつくるだけでなく、来場者が迷わずそこへ到達できる仕組みの重要性を改めて感じた万博でした。